統計から導き出した枚方市の人口流出の要因

市民と協働でまちづくりをしていくための情報公開が始まりました。公開された情報は、率直に言って「市民との協働」にどのようにつながるのか、あまりピンと来ません。でもまぁ議会も始まることですし、それに合わせて次回、取り上げておきましょうか。地道に積み上げれば成果が出ることもあるでしょうし。

30歳前後の枚方市民の社会増を町ごとに調査

閑話休題「枚方市の人口流出の仕組み」で紹介した方法と同様に、2015年10月1日時点で30〜34歳の人について町ごとに社会増(転入と転出の差)を推定しました。今回の分析に用いた資料とデータは以下のとおりです。

できることなら1歳ごとに調べたかったのですが、枚方市の町ごとの年齢別人口は5歳階級しかありませんし、最も古いデータは1995年の国勢調査しかありませんでした。

古いマンションが30歳前後の大量の転出超過をもたらす

例によってグラフを作成してみたのですが、全体の傾向や特徴がつかみずらく、今回は掲載しません。次のような条件を与えて抽出すると、いくつかの特徴が現れました。

30歳前後の激しい人口減少が起きる要因のひとつに、古くなったマンションが考えられます。子どもが大きくなれば、2世帯住宅のような住み方はできませんから、必然的に家を出て行きます。これは人口流出の要因と言えるでしょう。加えて、その地域に占める高齢者人口の割合が大きいことが、人口流出との因果を証明できないこともわかりました。

男性の就職による転出が最多

つづいて、人生の節目でどのようなことが起きているかを調べました。次の3つの時期について社会増を調べました。

3つの節目を総合すると、男性より女性の転出と推定される減少が大きくなりました。ところが、個別の節目においては、女性より男性の転出と推定される減少が多くなっています。

住み続けたくないまち・選ばれないまち一覧

全体のおおまかな傾向や顕著な例を挙げても、それほど価値のある情報になり得ず、たとえ読者の皆さんが共感してくださっても、その先の何らかの行動に結びつけていただけそうにありません。やはり個別の地域の状況をひとつ一つ、つまびらかにしなければ、「人口流出」の歯止めがきかないと考えました。人権上、具体的な地域の名前と要因をリストアップして表に出すことに、ためらいはありますが、そうでもしなければ人口問題は解決しづらいと思っています。

筆者の土地勘や主観に左右されず、定性的、定量的に効率良く調べる方法はないかと、悩みに悩んで編み出した方法です。

枚方市内の人口1000人以上の地域すべてについて、2015年10月1日時点で30〜34歳の人が「高卒後(20歳ごろ)」「就職後(25歳ごろ)」「結婚後(30歳ごろ)」という人生の岐路において、どのような行動に出たかを調べました。同じ町の5年前の値と比較して、値が小さくなっているかを調べた結果です。凡例を参考にご覧ください。マークの付いているところは「転出超過と推定される」ことを意味し、マークの種類は転出超過の多さを表しています。

表1.人生の岐路・性別の選ばれないまち
町名全体男性女性
高卒就職結婚高卒就職結婚高卒就職結婚
岡山手町
枚方上之町
伊加賀栄町
伊加賀西町
伊加賀北町
朝日丘町
高塚町
西田宮町
走谷1丁目
走谷2丁目
東中振1丁目
東中振2丁目
南中振1丁目
南中振2丁目
北中振1丁目
北中振3丁目
香里園町
香里園山之手町
香里園桜木町
香里園東之町
翠香園町
出口1丁目
出口2丁目
出口3丁目
出口4丁目
出口5丁目
村野本町
村野東町
村野南町
印田町
桜丘町
星丘1丁目
星丘2丁目
星丘3丁目
星丘4丁目
山之上西町
山之上北町
山之上1丁目
山之上5丁目
宮之下町
藤田町
東香里元町
東香里新町
東香里南町
東香里1丁目
東香里3丁目
高田2丁目
茄子作東町
茄子作北町
茄子作1丁目
茄子作2丁目
茄子作3丁目
茄子作4丁目
釈尊寺町
香里ケ丘1丁目
香里ケ丘2丁目
香里ケ丘3丁目
香里ケ丘4丁目
香里ケ丘6丁目
香里ケ丘7丁目
香里ケ丘8丁目
香里ケ丘9丁目
香里ケ丘12丁目
中宮本町
中宮山戸町
中宮東之町
中宮西之町
中宮北町
新之栄町
都丘町
須山町
松丘町
池之宮1丁目
池之宮2丁目
甲斐田町
甲斐田新町
片鉾東町
交北3丁目
田口1丁目
田口山1丁目
田口山2丁目
田口山3丁目
山田池東町
宮之阪1丁目
宮之阪2丁目
宮之阪3丁目
宮之阪4丁目
禁野本町1丁目
禁野本町2丁目
西禁野2丁目
磯島茶屋町
磯島南町
御殿山町
渚元町
渚栄町
渚東町
渚南町
渚西1丁目
三栗1丁目
三栗2丁目
上野2丁目
小倉町
小倉東町
黄金野1丁目
黄金野2丁目
牧野本町1丁目
牧野本町2丁目
牧野阪2丁目
東牧野町
西牧野3丁目
西牧野4丁目
牧野北町
養父元町
養父西町
養父丘1丁目
養父丘2丁目
宇山町
上島町
招提元町1丁目
招提中町1丁目
招提南町1丁目
招提南町2丁目
招提南町3丁目
招提大谷3丁目
高野道2丁目
船橋本町2丁目
東船橋1丁目
東船橋2丁目
南船橋2丁目
西船橋1丁目
西船橋2丁目
東山1丁目
東山2丁目
樋之上町
町楠葉1丁目
町楠葉2丁目
南楠葉1丁目
南楠葉2丁目
北楠葉町
楠葉中町
楠葉花園町
楠葉面取町1丁目
楠葉野田1丁目
楠葉野田2丁目
楠葉丘1丁目
楠葉並木1丁目
楠葉並木2丁目
楠葉美咲3丁目
津田元町2丁目
津田駅前1丁目
津田駅前2丁目
津田東町2丁目
大峰元町2丁目
春日元町1丁目
春日元町2丁目
野村元町
野村中町
杉山手1丁目
杉山手3丁目
尊延寺5丁目
氷室台1丁目
長尾元町1丁目
長尾元町2丁目
長尾元町3丁目
長尾元町6丁目
長尾元町7丁目
長尾東町2丁目
長尾東町3丁目
長尾西町1丁目
長尾西町2丁目
長尾西町3丁目
長尾家具町2丁目
長尾家具町3丁目
長尾家具町4丁目
長尾谷町2丁目
長尾谷町3丁目
北山1丁目
藤阪元町2丁目
藤阪元町3丁目
藤阪中町
藤阪東町4丁目
藤阪西町
藤阪北町
凡例:人口の減少率
なし人口増加/変わらず
19%未満
19%以上50%未満
50%以上

凡例で示したしきいの設定根拠は次の通りです。まず、三角印が平均的な転出の範囲に収まるようにしています。これは、2005年以降の枚方市の年間転出人数が平均して1万5000人で、枚方市の人口(40万人と仮定)に対する5年間の転出人数の割合を求めると約19%だったことから、このように設定しています。次に、地域の人口(2015年10月1日時点で30〜34歳)が半減するほどの大きな減少を目立たせるための工夫として、丸印と星印の境界は50%に設定しました。

結果の概略として、無傷(すべてマークなし)だったのは183町のうち5町、1つ以上の三角印を含めると30町だけでした。数少ない星印が目立ち、そこだけに目が行くかもしれませんが、少なくとも丸印は良くない状況で数も多いことは認識しておく必要があります。また、3つの岐路が連続してマークがついているような地域は、たとえ三角印だけであっても着実に人口流出が起きていると考えられますので安心はできないでしょう。

改善しない有効求人倍率

ここで、大阪労働局が公表している求職者1人に対する求人の数を表す有効求人倍率の推移を示します。枚方所管内(枚方市、寝屋川市、交野市)は、ず〜っと1倍を下回ったままです。

余談ですが、枚方市議会議員だった人が、こんなことを書いていたのを発見しました。この解釈は間違いです。

…(略)…枚方管区での有効求人倍率は0.40、つまり仕事が見つかるのが10人中4人という大変、就職難でもあります。

ハローワーク枚方: 西村健史のチョッといいですか(2009年3月13日)

「仕事が見つかる」人が4人ではなくて、「仕事を探している10人に対して、求人票を出している事業所などの採用人数の合計が4人」です。有効求人倍率とは、仕事を探している人が志望するか否かに関係のない数字です。今後は、こういう賢くない人を選挙で選ばないようにしなくてはいけないと、誓いを胸に…(以下、略)。

こうした問題に枚方市は2005年(平成17年)の地域再生法によって、国の支援(お金)を受けていました。2007年(平成19年)3月末までの計画で、枚方市雇用機会増大促進協議会(枚方市、北大阪商工会議所、学識経験者)をつくり、「新産業・新サービス創業支援セミナー」、「学生インターンシップ」を実施、「インターネットを利用した求人求職マッチングサイト」を運営、津田サイエンスヒルズに研究開発型の企業を誘致、スタートアップ資金融資の一部補助、輝きプラザきらら内に地域活性化支援センターを開設したとあります。

枚方市は昭和30年から40年代にかけて住宅都市として急激に発展した都市であるが、同時に、(株)小松製作所枚方工場などの大規模工場や、枚方中小企業団地・既製服団地など市の誘致によって立地した企業団地などの企業活動が大きな比重を占める工業都市としての性格も有していた。しかしながら、産業構造転換や住宅化の進展による操業環境悪化は、大企業のみならず関連の中小企業を含めて地域外への事業所移転を促し、雇用機会の喪失を進ませた。さらに、企業リストラに伴う人件費削減傾向は、パート就労や派遣契約就労など雇用形態の多様化を生むこととなった。

その一方で、市内には大学の立地が進み、6つの大学が存在する学園都市としての性格を強め、多くの学生層を抱えることになったほか、大阪市のベッドタウンとしての性格も持ち、女性層や退職者層など就業支援が必要な地域人材が増加している。

その結果、職を求める経験豊かな人的資源が豊富であるにもかかわらず、雇用の機会が少なくそのスキルが十分活用されない現状が、平成16年の大阪府における有効求人倍率0.84に比べ、0.36と大阪府内で最も低い地域となっている原因であると考えられる。

これを解決するためには、多様化する消費者ニーズに応えうる新産業・新サービスの創造を促進し、これらを担う人材を育成するとともに、求人と求職のマッチングを図るための情報提供活動が極めて重要となっている。

第1回認定 地域再生計画の概要 枚方市地域活性化支援計画,地域再生本部,内閣官房

この計画が実行されたのですが、結果はご覧の通り。

まとめ

枚方市内での30〜34歳の転出と転入を調べてわかったことをまとめました。

総括

世代間のつながりがないと、ある種の伝承文化が途絶えてしまいます。公的機関の記録に残らないノウハウ、事例などが受け継がれなければ、二の舞を踏んでしまうでしょう。それが例えば防災に関係することだったとしたら、二度も奪われることのないはずの人命が奪われることだって考えられます。ちょっと気になりました。

伏見市長が思い描いている将来像に向けて、まだこれから何をしようかと検討を始めている段階ですが、こちらに聞こえてくる将来像と施策には、やはりかいがありそうです。大なり小なり乖離があっても修正されるなら構わないのですが、聞く耳を持たず、議論をせずという点を懸念しています。

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