枚方市の人口流出の仕組み

疑念

伏見市長の話をいろいろ聞いていると、市長は何かを見誤っているのではないかと思うようになりました。

枚方の子育て環境は良いほうです

伏見市長は就任直後のインタビュー[1]でツッコミを入れられていました。何かというと、子育て環境の充実を目指すことについてでした。

枚方市在住で子育てをしているインタビュアーは、個人的な考えとして、枚方は子育て環境が充実していると述べた上で、伏見市長がさらなる充実を目指しているのだとフォローしていました。伏見市長にとって優先度の高い課題にDJがツッコミを入れていたので、筆者はとても引っかかっています。

何をすべきか見えていない?

子どもの数が少ないなか、将来を担う子どもが増えることは良いことなので、充実させることは間違いではないと思います。しかしながら、劣悪とまでは言えない環境なのに、他の課題に目がいかないほどの力の入れ方をしていたとしたら、いつまでたっても人口減少の問題は改善しません。

伏見市長は、転出超過の原因が官舎の廃止にあると述べています[2]。職員から報告を受けた情報を述べているのでしょうから、確かにそうなのでしょう。でも、その改善策として子育て環境の充実や賑わいの創出ばかり[3]考えていても、人口流出は止まらないと思っています。

分析

どのような年齢層の枚方市民によって人口流出しているのかを調べてみたいと思い、統計書[4]のデータを使って、どの年齢層が転入超過傾向にあるか、転出超過傾向にあるかを判断できないか分析してみたくなりました。そこで考え出したのが次の手法です。

方法

まず、2014年10月1日時点の枚方市民の人口を年齢で分類し、次に、そこから9年前までの人口推移をグラフにしていく方法です。具体的には、2014年10月1日時点での年齢別人口が、9年前までのそれぞれの調査時点の年齢と合うように統計処理を行います。例えば、2014年10月1日時点で20歳だった人たちは、ちょうど1年前であれば19歳、2年前なら18歳ですから、それらの年齢の人口を追跡します。仮に、この期間で死亡や転入、転出が発生しないとすると、人口は1年前も2年前も同一人物らによる人数ですから、グラフは横ばいに描かれます。年齢による違いを浮かび上がらせるために、2014年10月1日時点の人口を基準(ゼロ)に、差を計算してグラフを作成しました。

このようにすることで特定の年齢層について、グラフの傾きが正(右肩上がり)であれば転入超過傾向、負(右肩下がり)なら転出超過傾向(死亡含む)にあると判断できます。

なお、統計書は100歳以上の年齢別人口は年齢ごとの結果を公表していないので、今回の分析対象からは除きました。

結果

まず、全体の結果(図1)をご覧ください。ざっと、右肩下がりの群、ほぼ横ばいの群、その他に分かれているようです。

図1.枚方市全体の年齢別人口推移

ここから生産年齢を過ぎた(65歳以上)市民を抽出すると、次のような結果になりました(図2)。年齢層から考えて、転出というよりも死亡によって減少していると推定するのが自然でしょう。さきほどのグラフの右肩下がりの群は、主に高齢者の死亡によるものだったとわかります。

図2.65歳以上の年齢別人口推移

では、生産年齢に達する前(15歳未満)の市民ではどうでしょうか。9年前までの追跡という分析の性質上、10歳未満の市民の推移を抽出できないことから折れ線の本数が少ないですが、傾向は右肩上がりです。これらの年齢層では転入超過が発生しています(図3)。

図3.15歳未満の年齢別人口推移

2014年10月1日時点で10〜14歳だった枚方市民の数と9年前の人口の差は637人でした。ということは、9年間で637人の転入超過ですので、親子世帯の枚方市への転入については、すでに一定の成果が出ているとわかります。

次に、生産年齢(15歳以上〜65歳未満)の市民を抽出した結果を図4に示します。多くの年齢層は横ばいになっています。2009〜2011年を境に転入超過が発生している層もあります。反対に、右肩下がりの年齢層も存在します。

図4.生産年齢の年齢別人口推移

この右肩下がりの傾向について詳しく調べてみました。ここでは、減少率を「2005年10月1日の人口と2014年10月1日の人口の差を9で割ったもの」と定義し、2014年10月1日時点での年齢ごとに算出しています。

通常「増加率」として表記すべきものですが、符号が負になって見づらいため、ここでは「減少率」として人口の減少が大きい場合に減少率が大きく、少ない場合は減少率が小さくなるよう計算しています。

男女あわせて算出した減少率(表1)では、29〜34歳と62歳以上の年齢層が30(人/年)以上でした。最も減少率の高い年齢は31歳で減少率は78.89(人/年)でした。9年で29〜34歳は3022人の減少です。

男性で抽出して算出した減少率(表2)は多くが10(人/年)を下回っていますが、25〜39歳と61歳以上で10(人/年)を超えています。28〜34歳に絞ると減少率が20(人/年)以上で、このなかで最も減少率が高いのは31歳で41.22(人/年)でした。

女性で抽出して算出した減少率(表3)が10(人/年)以上なのは、28〜35歳、59歳、62歳以上です。それ以外では10(人/年)を下回っています。29〜32歳に絞ると減少率は20(人/年)以上で、このなかで最も減少率が高いのは31歳で約37.67(人/年)でした。

考察

現状を簡潔に言えば「子育て支援を拡充してもアラサーが出て行くまち枚方」なのです。出て行かれるのに賑わいを創出しても意味がありません。

市長の認識

伏見市長は、議会の答弁で転出者へのアンケートの結果を述べていました。

◯伏見 隆市長 次に、人口減少や子育て世代流出の要因について、お答えします。

平成26年の社会動態の傾向としては、転出が多い年齢層は20歳から39歳で58.2%を占めています。また、市民室の窓口で行った転出者に対するアンケート結果では、市外への転出の理由として、1番目に多い理由が仕事の都合で45.5%、2番目の結婚・出産など世帯構成の変動が24.5%、3番目の電車・バスなどの交通の便が良いが14.0%となっており、それらが主な要因と考えています。また、現在その要因を精査するために、平成27年3月から1年間かけて転入、転出に関するアンケート調査を実施しているところであります。

平成27年9月定例月議会,枚方市議会(2015年10月27日)

人口は男性より女性のほうが多いのに、31歳の人口減少率は男性の方が高くなっています(表2, 3)。結婚や出産などで枚方市から転出する人の2倍近くの人が、仕事の都合で枚方市から転出しています。なぜ伏見市長は子育て環境を最も重要な施策に位置づけているのでしょうか?

入籍によって引っ越すのは、まだまだ女性のほうが多いと思います。だとしたら、男性が仕事の都合で枚方市から転出してしまったら、女性は集まらないし、子どもも増えません。シングル(ひとり親)をターゲットにしている…?

人口流出スパイラル

いま枚方市で起きている人口流出は、図5のような過程で続いているのではないかと考えています。

図5.枚方の人口流出スパイラル

しかも、すでに起きている現象でありながら、伏見市長がこのループをさらに加速させようとしています。マジでヤバイ…。

議員の指摘

筆者がこんな分析をしなくても、すでに議員から指摘されていることなんです。

◯田口敬規議員 …(略)…*枚方市は人口流出が止まらないわけでございます。その理由の1つに、かつては働くところと住むところが別という、いわゆるベッドタウンということでございましたが、今は逆でございまして、働くところの近くに住みたいという傾向で、人口が大阪市に流れているというデータからも見てとれるわけでございます。この大きな流れと、真逆のことをやろうとしているわけでございまして、根本的に解決するためには、雇用の確保ということに力を注いだほうが、選択と集中ということを考えても、また費用対効果を考えても、人口問題を最優先と本気で考えるならば、効果的ではないかというふうに思います。…(略)…

平成28年3月定例月議会 代表質問(2016年3月4日)

枚方市の場合、人口流出は子育て環境の悪さが最大の要因ではありません。伏見市長が平成28年度市政運営方針に対する各派代表質問で述べている内容に、雇用問題が重要との認識はうかがえません。答弁に市長の意向らしきものが入っていないということは、取り組むつもりはないということです。無論、選挙公約にないので当然ですね。

[1] 市長は2015年9月24日放送の街角BirdView(レポートダイジェスト)に出演しました。

[2] 平成28年度市政運営方針に対する各派代表質問で答弁しています。

[3] 市役所の組織を改編 ~平成28年度の機構改革を実施しました~ - 枚方市ホームページで、「子育て事業課」「子育て運営課」「保育幼稚園課」「放課後こども課」「子ども総合相談センター」を設置したり、「賑わい交流課」を設置したりしています。

[4] 枚方市統計書 - 枚方市ホームページで公表されています。


* 会議録が公開されていないため、発言内容は筆者による文字起こしによるものです。過不足や聞き間違いなどを含む場合があります。

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