いんちきな実行計画
第5次枚方市総合計画の第1期実行計画には、平成28(2016)〜31(2019)年度の4カ年における、各事業の取り組みを1年ごとに定めています。また、平成28年度6月補正予算、9月補正予算で事業化されたものについても同様に、4カ年における各事業の取り組みを1年ごとに定めています。
この実行計画は公開されて時間が経っているものですが、市はホームページに掲載しているだけで、実際に「市民や市民団体など」と情報を共有できているかどうかは別問題です。ということで、筆者なりに内容を見てみることにしました。
約95%の事業は実行計画になじまない
実行計画には、財源の確保ができていない事業を除くと、全部で172の事業があります。このうち、全体の8割を超える141の事業で、2年目以降の取り組み内容が1年目の取り組みを「推進」もしくは趣旨として推進する表現で書かれていました。それで、どうやって事業の継続を妥当だと判断できるのでしょうか。
これらの事業の取り組み内容を精査したところ、4年間もしくはそれ以降にわたって計画的に取り組もうとしている事業は、たった9つしかありませんでした。これは全体(172事業)の約5パーセントです。実行計画の枠組みにふさわしいといえる具体的な9つの事業名は、次の通りです。
- 枚方市駅周辺再整備ビジョン推進事業
「枚方市駅周辺地域が、本市の中心市街地として魅力あふれる賑わいのあるまちとなるよう地域に関わる方々と連携を図りながら、枚方市駅周辺再整備ビジョンの実現に向けた取り組みを進める。」
「交通環境の改善に向けた取り組みを進める。」
- 水道施設更新・耐震化事業
「水道水を安定的に供給するため、経年劣化が進む中宮浄水場について施設の更新を行う。また、災害発生時の市内各地の応急給水に対応するため、受・配水施設への緊急遮断弁の設置及び耐震化を進める。」
- 下水道施設維持管理事業
「浸水被害対策等に備え、下水道施設(河川、水路、管渠)の清掃及び維持補修等を迅速に実施する。また、下水道施設長寿命化計画を策定し、汚水管渠施設等の計画的な長寿命化工事を進める。」
- 新児童発達支援センター整備事業
「障害のある子どもたちにより良い保育・療養を
提供するため、本市の幼児療育園とすぎの木園の両施設の機能を有した新児童発達支援センターを整備する。」
- 学校施設更新整備事業
「市立小中学校施設の老朽化に対応し、計画的な整備を図るため、枚方市学校施設整備計画(第1期実施計画(前期)H27~32年度)に基づき、順次、学校施設の更新(改築又は長寿命化改修)に取り組む。」
- 総合文化施設整備事業
「優れた文化芸術の鑑賞機会を提供し、集客とにぎわいを創出する新たな文化芸術拠点をつくるため、大・小ホール、イベントホール、美術ギャラリーなどを備えた総合文化施設を整備する。」
- 公園整備事業
「市民が日常生活の中で自然と親しめる場を確保するため、まちなかの公園整備を進めるとともに、桜の名所づくりなどに取り組む。」
- 新ごみ処理施設整備事業
「穂谷川清掃工場第3プラントの老朽化に対応し、将来のごみ需要予測を踏まえた効率的・効果的なごみ処理を行うため、京田辺市との広域連携により、新たなごみ処理施設を整備する。」
- 公共下水道(汚水)整備事業
「快適な生活環境を支え、水質汚濁を防止するため、公共下水道(汚水)の整備・改良を進める。」
はっきりとした特徴が表れています。実行計画にまとめることによって効果が得られる事業は、建設工事だけです。
上記の事業費を合わせると340億142万6000円で、平成28(2016)年度の総事業費の約28パーセントでした。言い換えると、事業単位では約95パーセント、事業費にして約72パーセントの事業に対して、実行計画の策定と称した無駄な検証作業が行われています。
別の枠組みを検討すべし
つまり、この実行計画をホームページに掲載することで、うち約8割の事業(合わせて856億8111万円)を、だらだらと継続してよいと認めさせたことになっています。行財政改革をしない聖域を作ったも同然です。メスを入れる場所はここにあると思います。
例えば、1年で完結できる事業は1年で切った計画を出させて、また次の年に前年度の取り組みを改善するなり、拡充させるなりした新たな計画を出させて、継続すべき事業だけ継続的な取り組みができる枠組みを作るというような改善が必要ではないでしょうか。市長の提案しているサンセット方式は、補助金事業の見直しを目的としているので、補助を受けない事業に見直しは行われません。
建設工事を除くと適正な計画は1事業のみ
すべてがダメなのかというと、そうではありません。「ヘルシーメニューの開発支援など飲食店を通じた健康づくり推進事業」[1]は唯一、平成29(2017)年度で打ち切る計画になっています。
この事業は、「枚方市独自の基準設定をした『枚方市版ヘルシーメニュー(仮称)』の提供を行う飲食店を募集し、希望のあった飲食店に対し、ヘルシーメニューの開発を支援し、ガイドブックを作成して市民に周知することで、外食を通じて食生活面から個人の健康づくりを支援する」ものなので、だらだらと継続(推進)することは可能です。検証結果を踏まえてから、どうするかを考えると言いつつも、事業は継続させるとしている他の事業がある一方で、この事業だけがいったん終了させる計画になっています。
よって、建設工事の9つの事業のほかに、計画が適正といえるのはたった1事業(概算事業費:32万4千円)だけでした。これら以外の事業は、実質的にノー・チェックです。
無尽蔵に人件費を食いつぶす可能性のある事業
「財源確保などの課題解決を図りながら、実現に向けて取り組む事業」に含めず、概算事業費の値を入れていない事業があります。取り組む費用のかからない事業なんて、ありえないでしょ。次の21の事業を事実上タダとしています。
- 予算編成過程等の公表
「協働によるまちづくりの実現に向け、市民満足度の向上を図るためには行政と市民や団体などと信頼関係を高めていくことが重要である。そのためには、行政の持つ情報を積極的に提供し、課題に対する共通認識を持つことが必要であるため、実行計画や予算編成の検討段階における情報を公表し、行政の透明性を高める取り組みを進めていく。」
- 健康危機管理体制構築事業
「災害時の迅速かつ適切な支援のため、マニュアル類の整備や訓練の実施等により、健康危機管理に係る役割分担の明確化や、被災者の心身における健康面でのケアなどの専門的な支援を図ることで、本市における健康危機管理体制を構築する。」
- 個人情報適正管理事業
「個人情報の漏えい防止につなげるため、個人情報保護に関する職員の意識向上に向けた啓発・研修を継続的に実施する。」
- 新名神高速道路等建設促進事業
「交通渋滞の緩和や都市間交流の活性化等につなげるため、新名神高速道路及びそのアクセス道路となる内里高野道線などの整備に向けて、事業者であるNEXCO西日本や国、大阪府に対し働きかけを行う。」
- 淀川渡河橋整備促進事業
「本市と北摂地域との道路交通ネットワークの向上をめざし、淀川渡河橋の整備に向けて、高槻市等との協議を行うとともに、関係機関への要望等を行う。」
- 地域医療連携システム構築事業
「市内の公的病院をはじめ、地域の病院・診療所の医療連携を強化するため、病院・診療所間の患者情報や診療情報の共有化に向けて、インターネット環境を利用した医療情報ネットワーク『地域医療連携システム』を構築する。」
- 保育所(園)・幼稚園における世代間交流事業
「高齢者の生き生きとした暮らしにつながるよう、高齢者と保育所(園)・幼稚園の子どもたちとの世代間交流を図るため、園行事への高齢者の招待や、園児の老人ホームへの訪問などの取り組みを行う。」
- 高齢者等在宅生活環境整備連携事業
「高齢者が住み慣れた地域で健康でいきいきと暮らすことができるよう、大阪府の『スマートエイジング・シティ』構想との連携などの取り組みを進める。」
- 高齢者虐待防止事業
「高齢者への差別や虐待の防止を図るため、市内の『高齢者サポートセンター』などにおいて、地域住民への広報・啓発や、虐待に関する相談支援を実施するとともに、枚方市高齢者虐待介入ネットワーク会議等による関係機関・団体との連携強化に取り組む。」
- 政策等の意思決定等における男女共同参画推進事業
「多様な視点を市の政策等に反映させるため、審議会等における女性委員の参画拡大を図る。また、女性職員のキャリアアップに対するモチベーションの源泉となるよう、女性職員の管理職への登用の推進を図る。」
- 学校規模等適正化推進事業
「市立小中学校の教育環境の整備・向上と学校教育の充実を図るため、将来の児童生徒数を踏まえた適正な学校配置等のあり方について検討し、学校統合等により学校規模等の適正化を推進する。」
- 学校給食充実事業
「安全で安心な学校給食を効率的・効果的に提供するため、小学校給食に加え、H28年4月から選択制のランチボックス方式による中学校給食を実施する。また、食物アレルギーへの対応等を行うことで学校給食の充実を図る。」
- 枚方市駅周辺賑わい創出事業
「枚方市駅周辺の賑わいを創出し、地域の活性化につなげるため、岡東中央公園(にぎわい広場)を活用したイベント等の利用促進・情報発信の充実を図る。」
- 産学公連携事業
「地域資源である大学や市内企業等と連携し、技術革新や新産業の創出を目指して、本市とひらかた地域産業クラスター研究会、北大阪商工会議所、学園都市ひらかた推進協議会等の共催により、産学公連携フォーラムを開催する。」
- 市道緑化推進事業
「まちなかの緑地空間を創出するため、市道における街路樹の整備や適正な維持管理を行う。」
- 再生可能エネルギー導入等推進事業
「低炭素社会の実現に向けて、新設や既存の公共施設への太陽光発電システム等の導入を進めるとともに、市の太陽光発電システム等を活用した再生可能エネルギーの普及啓発を図る。」
- 行政改革推進事業
「H28年度からH31年度を期間とする「新行政改革実施プラン」に基づき、改革課題達成に向けた取り組みを推進する。」
- 組織体制充実事業
「社会経済状況や行政課題を踏まえ、より効率的で機能的な行政組織の構築を図ることを目的として、機構改革を実施する。また、組織横断的に柔軟かつ機動的に行政課題への対応にあたる体制として、プロジェクトチームの設置を行うとともに、その権限や機能の充実を図る。」
- 人材育成推進事業
「人材育成基本方針に基づき、必要な知識や技能を備えた自律型職員を育成するため、各ステージで必要となる能力を身につけることなどを目的に、各種職員研修に取り組む。」
- 広域連携推進事業
「広域的な課題解決に向けて、北河内夜間救急センターの運営や北河内広域リサイクル共同処理など近隣市町村との広域連携を推進するとともに、京田辺市との新たなごみ処理施設の整備など周辺自治体とのさらなる連携・協力を進める。」
- 地方分権推進事業
「中核市としてふさわしい権限と責任を持ち、都市としての自主性・自立性を高めるため、市民にとってより良い行政の役割分担のあり方を踏まえながら、大阪府からの権限移譲を進めるなど、地方分権を推進する。」
実行計画自体が、職員の労務という観点を含めて作成されていないため、人件費を積算していないのだと思います。しかし、上記の事業の概要から、市職員の時間を多く消費するだろうということは容易に想像できます。だからこそ、概算事業費に数字が入れられていなければならないと思います。何が何でも実行計画の通りに費用を抑える必要はありません。結果が見当違いであれば改めるという、いわゆる「PDCAサイクル」を回せば良いのですから。