枚方市の治安を考える

枚方の治安が悪いとか、悪くなったと感じている人が少なからずいます。私たちの感覚と実際について興味があったので、調べてみることにしました。ツイッターで「枚方 治安」をキーワードに検索すると、枚方市民や近隣住民からの様々な声がうかがえます。

ツイッターにおける「枚方 治安」のキーワード検索結果

市民が感じる治安の変化

枚方市が市民に対して実施している施策評価の中に、治安に関係する評価項目があります。その推移を見れば、治安について市民が感じている変化を読み取ることができます。

市民意識調査結果(施策10:まちの安心・安全を高める)
調査実施時期重要度(pt)満足度(pt)
2010年7月(平成22年度)77.460.1
2011年6月(平成23年度)-58.9
2012年6月(平成24年度)79.761.0
2013年6月(平成25年度)80.561.2
2014年7月(平成26年度)83.558.7
平成27年度--

上記の数値は0〜100ポイントの範囲で、50ポイントが中央値になるような結果が出るように仕掛けられています。結果を見てみると、重要度は年々増えているのに対し、満足度は変化していません。対策が不十分か、原因と無関係な対策が実施されているため、効果が現れていません。

大阪府警の実績

大阪府警察がまとめて公表している統計には、1月1日〜12月31日の1年間に枚方市で発生した犯罪の件数が掲載されています。例えば、交野市で発生した事件はすべて交野警察署が処理しますが枚方警察署が処理していたり、枚方市で発生した事件を交野警察署が処理することがあります。していたりしますが、この統計は、事件が発生した場所単位で集計されているので、純粋に枚方市内で発生した犯罪について確認することができます。

しかしながら、このような統計資料は見る人のことを考えて作成されていないため、見づらかったり、意味がよく分からなかったりします。そこで、今回は枚方市で発生している犯罪の特徴と傾向を整理しました。

そして、大阪府における警察や警察学校での不祥事が改善しない今日において、データの信憑性は決して高くない状況にあることには留意する必要もあります。

まず、認知件数と検挙件数の推移を見てみましょう。

認知(件)検挙(件)検挙率(%)
2004年7600114215.0
2005年7288121916.7
2006年6284118818.9
2007年6204113018.2
2008年5825111919.2
2009年5979121620.3
2010年620173711.9
2011年573591916.0
2012年499082216.5
2013年438066915.3
2014年411584720.6
2015年3564102928.9

警察発表の数字を鵜呑みにすれば、次のことが言えます。

注目すべき点は、認知件数は10年前の約半分まで減っているのに対して、検挙件数が同様に推移していない点です。常識的に考えて、認知件数が減少すれば検挙件数も減少するはずですが、検挙件数がほぼ一定に推移しているのは不自然です。その原因として、警察が意図的に認知件数を減らしているか、通報や被害届の提出を諦めている人が増加していることなどが考えられるでしょう。

検挙件数に着目すると、1年間に枚方市内で発生した事件について、警察が能力的に検挙できるのが1100〜1200件という見方ができます。2010〜2014年の検挙件数の減少は、交野警察署が2012年7月2日に業務を開始していることから、その作業などに手を取られたためと推測することができます。

枚方市の治安の実際

警察が発表している枚方市で発生した事件の検挙率は、2014年から20パーセントに達しています。しかし、市民の満足度を勘案した場合、警察が把握していない事件を含めた犯罪の発生件数に対する検挙率は10年前とほとんど変わっていないのではないでしょうか。

そのように筆者が考える理由は次の通りです。もし、実際に事件が発生した件数と認知件数がおおむね一致すれば、認知件数の減少は実際に発生した事件の数が減ったことを意味するはずです。ところが、警察発表の認知件数が減少しているのに、枚方市の意識調査における重要度が逆に増しています。このようなことが起きるのは変です。

一方、警察発表の検挙件数と枚方市発表の満足度はどちらも一定で推移しています。事件が発生しないという観点で治安の善し悪しを判断する人もいるとは思いますが、発生した事件について、ある程度の割り合いで検挙されていれば満足感を持つでしょう。検挙能力が改善しないので、満足度も向上していないという分析は適切ではないかと思います。

犯罪の種類

一口に「治安」といっても、人は認知件数や検挙件数だけで感じ取っていないと考えます。統計は犯罪の程度について分類して公表していますので、そういった観点からも見てみます。

2015年の認知件数の多い犯罪ランキングは次の通りです。

  1. 自転車盗[833件]
  2. 器物損壊[363件]
  3. 万引き[300件]
  4. オートバイ盗[276件]
  5. 車上ねらい[206件]
  6. 侵入窃盗[175件]
  7. 部品ねらい[169件]
  8. 詐欺[167件]
  9. 置引き[135件]
  10. 傷害[112件]

件数を100件以上に限定したら、偶然ワースト10が出来上がりました。10位の傷害を除いて、物やお金を盗む犯罪で占められています。

減少傾向の犯罪は次の通りです。

警察による防犯対策の啓発活動が一定の成果を上げているという解釈も可能です。データが机上の論理というか絵に描いた餅のような減少傾向が出ていて不審に思います。前述したように、認知件数は警察に被害の届け出をしなければカウントされませんから、発生件数が減っているというよりは、泣き寝入りをしている人が増えてきているのではないでしょうか。

増加傾向の犯罪は次の通りです。

凶悪犯や粗暴犯に分類される犯罪の増加傾向は、治安の悪さを示していると言えます。上記の事件の情報に接し、治安の悪化傾向を感じているならば、そうなのかも知れません。

増加傾向にある犯罪の中には、治安の議論とは別の要因も見て取れます。万引きの増加傾向は高齢者の生活苦によるもの、公務執行妨害の増加傾向は依然として不祥事の続いている大阪府警への不満が表れていると考えば、説明がつきます。

検挙率の低い犯罪は次の通りです。括弧内の数字は左が検挙件数、右が認知件数です。ただし、筆者が認知件数が比較的少ないと感じた犯罪については、除外しています。

被害に遭わない対策がうたわれている犯罪がほとんどですが、この検挙率の低さも治安の悪さを体感する要因にもなっているでしょう。

治安を良くする対策とは

枚方の政治家に話をさせれば、日本中どこでも聞かれるキーワードが登場し、その対応策について執行機関に求めている姿勢をアピールします。でも、今回の治安に関するデータを見ると、実際は改善どころか、改善の兆しさえないことが分かりました。公的機関による費用負担の軽減や補助は重要なことですが、議論も思考もそこで停止してしまっています。もっと奥深いところに問題があって、社会的に何かが不足しているような気がします。

「治安」という言葉の意味には「安全」のほか、「秩序」が保たれていることも含まれています。そういった視点でも、考えていく必要があるのではないでしょうか。

用語解説

一般人には言葉の定義が分からないものが多いので、列挙しました。

空き巣
家の人が留守のときに現金や物品などを盗む。
忍込み
夜間に家の人が寝ているときに現金や物品を盗む。
居空き
昼間に家の人が気づかないときに現金や物品を盗む。
事務所荒し
事務所の現金や物品などを盗む。
出店荒し
お店の営業時間外に現金や物品を盗む。
自動車盗
車を盗む。
オートバイ盗
バイクを盗む。
車上ねらい
車の中に置いていた現金や物品を盗む。
部品ねらい
車につけている部品(カーナビなど)を盗む。
占有離脱物横領
落とし物を自分の物にする。ごみ置き場に捨てられたものを自分の物にする。
住居侵入
正当な理由がないのに、他人の家や敷地に入る。
器物損壊
他人の物を壊す。

資料

大阪府警が公表した統計を枚方市について推移が見やすくなるように編集しました。2015年の値は、認知件数および検挙件数ともに2016年1月5日現在の「集計数値」だそうです。ほかの値は「確定値」として位置づけられています。

枚方市で発生した犯罪の認知件数の推移
2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年2015年
凶悪犯殺人8254531411
強盗61213161610158
(路上強盗)3388461
放火967835410
強姦753361034
3025283130283633
粗暴犯凶器準備集合
暴行5833232860546577
傷害52505782929488112
脅迫48489132114
恐喝18101081013811
13210194126171174182214
窃盗犯侵入窃盗空き巣3521991396887838467
忍込み151717188122411
居空き12191285566
事務所荒し2639382631253022
出店荒し3157468445394318
小計472361302251212192233175
その他の窃盗自動車盗9259674577923638
オートバイ盗584762653649425349349276
自転車盗12901432139713411128912979833
ひったくり79127869058402611
すり10131010101285
置引き1831251017261123165135
車上ねらい517579758597555397377206
部品ねらい401507830465298337225169
自販機ねらい8030266035596635
万引き149207197283281199215300
小計41794474475842563585307928232378
46514835506045073797327130562553
知能犯詐欺12481577466147104167
偽造102271813387
その他653245124
140108679483155124178
風俗犯賭博
強制わいせつ2933465467406940
公然わいせつ・わいせつ物144613456
3037506080447446
その他の刑法犯占有離脱物横領18412884928310210059
公務執行妨害3269571110
住居侵入10888486445416263
略取誘拐人身売買1117
盗品15868149154
器物損壊518636749729662520428363
その他141181519292634
842873902917829708643540
合計58255979620157354990438041153564
2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年2015年
枚方市で認知された犯罪の検挙件数の推移
2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年2015年
凶悪犯殺人825333412
強盗117797494
(路上強盗)211313
放火1322224
強姦7225823
2712161615171723
粗暴犯凶器準備集合
暴行3529161925272566
傷害3637365944705996
脅迫2647461117
恐喝119342726
848159897511097185
窃盗犯侵入窃盗空き巣99107613646183425
忍込み2610724109
居空き81061624
事務所荒し61615386188
出店荒し121615142110198
小計14717613679110469590
その他の窃盗自動車盗2410798201515
オートバイ盗2952283933191730
自転車盗7388406140486457
ひったくり548232261518411
すり4924671
置引き412415653124
車上ねらい3570417430205742
部品ねらい5524437455144225
自販機ねらい211015628210
万引き65122103180166107135198
小計555674352534406305411488
702850488613516351506578
知能犯詐欺4853263636382951
偽造31251211337
その他24222324
5369335049443462
風俗犯賭博
強制わいせつ1381151763017
公然わいせつ・わいせつ物144613446
1412151130103423
その他の刑法犯占有離脱物横領182127839281969254
公務執行妨害31686499
住居侵入17205814111620
略取誘拐人身売買13
盗品15866137154
器物損壊1829152014111748
その他47106981020
239192126140137137159158
合計111912167379198226698471029
2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年2015年
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